Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル

    “梅雨の晴れ間に”


そろそろあちこちの商店街でも、
七夕の笹かざりが“夏物大売り出し”ののぼり代わりに立てられる頃合い。
今年はもう既に
初夏を通り越して“真夏っ”という印象の暑い日が多いから、
夏物をこうも早くにバーゲンしちゃうことへの不自然さもないものの、

 「本来は、売れ残りを一掃するぞっていう
  “クリアランス・セール”だったのにな。」

衣類のバーゲンといや、夏物に限った話じゃなくの冬物も、
そろそろその季節の流行ものは
隅々まで行き渡ってのもはや売れないだろうという頃合いを見越して、
じゃあ設定価格から何割か引きましょかとなったのが、
かつての正当な“バーゲン”だったものが。
今時じゃあ その季節の只中で、
いやいや下手をすると正式にはまだ直前という時期にという
途轍もない前倒しで値引きが始まるのが当たり前となりつつあって。

 「何とかアウトってのが幅を利かせ始めたからかね。」
 「もしかして“アウトレット”のこと?」

製造過程で何らかの不具合が出た商品なのでと、
正規品と同じ新品だのに、その時点で既に何割かお安くされたもの。
不都合がある品のはずが、今や堂々と“商品”になってるのも、
考えようによっちゃあ不思議な話ではあるけれど。
とことん不良品という訳じゃあない、
矯つ眇めつよくよく見ないと判らないくらいの難で、
半額近く安いなら、そっちへ飛びつくのもまた道理。

 「そういうのだけでもないらしいよ。」

ファッションモール同士、もしくはアパレルブランド同士の競争で、
前倒し合戦が加速した結果ってところもあるそうで。

 「何せ この不景気では、
  いくらバーゲンだってお嬢さんがたの資金は限られてるものね。」

あちこちのバーゲンを幾つも巡るという訳にも行かぬのが
今時のお財布事情だけに、
とりあえず欲しかったのが手に入ったから今年はもういいやなんて、
早々に満足されちゃあ後発は不利。

 「……なんて話を、
  白ばら女学園のお嬢様たちが振って来てたんだけど。」

大学生はもうそろそろ夏休みだもんね、
バカンスへ持ってくお洋服や水着、
今年の流行ものを、しかもバーゲンで買えるって順番は、
さすがに嬉しいんじゃなかろかと。
一枚板のカウンターを丁寧に除菌スプレーで拭きながら、
そんなお話を振ってくる、
金の髪を引っつめに結って、
下ろしたときよりも尚のことなめらかに光らせておいでの、
若々しい従兄弟のお兄さんの言いようへ、

 「そうか、年がいくほど休みも早いんだったな。」

こちらさんは、各々のボックス席に
籐籠にてセッティングされてあるカトラリーの確認をしつつ、
話は聞こえていたよと応じた、やはり金の髪した白皙痩躯の男性で。

 くうちゃんは何時までなんだ保育園。

 小学校と同じだそうですよ、
 七月半ばの海の日あたりが終業式じゃないかな。

 「ああでも、幼稚園じゃなくの保育園だから、
  親御さんの都合によっちゃあ、
  お盆を挟んでの夏じゅうも特別に預かる枠とかあるそうですが。

 「そっか、シングルとかだと
  一緒に休めんのだ、預けられなくなっちゃあ困るものな。」

時代も変わったよなぁなんて、思いはしても口には出さぬ。
だって自分も、奥方に片親もどきという苦労をかけたし、
可愛い坊やには寂しい想いもさせた ヨウイチロウさんだったから。
消毒済みのカトラリーの補充を終えて、
カウンターまで戻って来れば、
表通りを向いたテラス席へと、
折り畳み式のテーブルと椅子とをセットしていたオーナー氏が、
そちら様は既にきっちりと、
ここでの制服、ベストスーツ姿で戻って来、

 「ヨウイチロウ、坊やが来たぞ。」
 「お…もうそんな時間だったかな?」

チャコール色の木枠のはまった格子窓の外を覗き見やれば、
こちらのマスコット坊やのくうちゃんと、
髪色や風貌もたいそう似通ってはいるが、
そちらさんはしっかりした所作にて敏捷に逃げ回る、
小学生の坊やがお顔を増やしておいで。
影踏み鬼でもしているものやら、
キャッキャとはしゃいでおいでの二人の傍らには、
少し離れた駐車場に愛機を置いて来たものか、
坊や専属のドライバーこと、葉柱とかいう青年も立っており。

 「………そいや、あいつも大学生だったな。」

正々堂々、こんな朝早くからデートとしゃれ込めるってかと。
結構な美形で、ファンだって多い、
でもでもこちらも実はお若いお父様がこぼしたお声が、
ややもすると悪態めいていたものの。

 「ぼやかないの、悪い子じゃあないんだし。」

それどころか、
体格もかっちりしてるわ、リーダーシップはあるわの、
しかもああまでなイケメンだってのに、
女性にうつつを抜かさずの 小さい子を構ってくれるなんて、
今時には珍しいほどいい子じゃないのと。
こっちに気づいたらしいくうちゃんへ手を振ってやりつつ、
七郎さんが助言をしたものの、

 「…………………。」

普通の子供じゃないだろうがあの妖一はよ、とか。
どっちかって言うと、尻に敷かれてるが正解だ、とか。
ただの足代わりにしてるだけだ、なんてこと、
もしもこちらから言ったが最後。
だって言うのに こうまで付き合いが長いなんてのは…と、
あちらの大学生がいい子であること
増す増すと畳み掛けられそうな気がするお父様。
ややもすると憮然としたまま、
マスターが“ほいよ”と調理場から持って来た、
茶房“もののふ”特製、
日もちのしそうなメニューのお弁当入りバスケットを受け取ると。
こちらさんはまだ、
Tシャツにバギーパンツという
いたってラフな格好のままだったヨウイチロウさん、
それでも んんんっと咳払いしての威厳を何とか掻き集め、
今から川崎スタジアムまで
大人チームの東西戦があるのを観戦しにお出掛けだという、
でこぼこカップル二人へと朝のご挨拶をしに向かう。
今日は何とか梅雨の晴れ間が保ちそうだという話だから、
だっていうのに

 “詰まらない嵐を吹っかけなさんなよ?”

とは、
何とか頑張っているらしい、彼からは甥っ子の背中を見送った、
蓬髪ダンディなマスターさんの胸のうちにての独り言。
さても、きょうもまた気温が上がりそうないいお日和で、
せめてものこと、心地のいい風が吹くといいですね。
皆さま、どうかよい週末をvv







   〜Fine〜  12.06.23.


 *オリキャラばっかのお話ですいません。
  それにつけましても、
  私はどこのお天気お姉さんでしょうか。
(笑)
  次の台風も近づいてるそうで、
  週末とくくったものの、
  西では早くも明日から お空も怪しいそうですが。
  節電の夏、せめて水には不足がない方がいいにはいいのですが、
  だからって災害は困ります。
  ほどほどのお湿りで済みますように…。


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